人に限らず、ほとんどの生物において睡眠が観察されまていますが、種によって睡眠の形質は様々です。例えば、肉食の動物はエネルギー摂取効率が高く、睡眠時間が長い傾向にあります。反対に、体が大きくて草食の動物は大量の草を食べ続けなければならず、また、肉食動物などに狙われないよう、睡眠時間が短い傾向にあります。他にも、イルカやクジラなどは、長時間活動を停止すると呼吸が出来ず溺れてしまうため、右脳と左脳を交互に眠らせ、半分起きて活動し続けることができます。これを半球睡眠と呼びますが、長い距離を移動する渡り鳥も半球睡眠をしながら羽ばたき続けることが確認されています。この様に生物は、進化の過程で独自の姿かたちや習性を獲得してきたと同時に、それらを支える睡眠を獲得しDNAレベルで受け継いできたのです。
一方、人類も人類らしい姿形や習性とともに、人類らしい睡眠を独自に獲得し受け継いできました。特に人の場合、特異的に発達し複雑化した大脳や交感神経系を休息させ・調整するのに、睡眠は極めて重要な役割を担っていることがさまざまな研究により明らかにされています。人間らしい活動を支えているものは、人間らしい睡眠なのだと言っても過言ではないのです。
今後、遺伝子に突然変異が起こって今と全く違った睡眠パターンの人間が生存競争に勝ち残っていく可能性は否定できません。しかし、そのような進化の分岐は千年~万年単位で起こるものです。現時点で人類が持つ睡眠の形質が、これまでの生存競争に勝ち残ってきた睡眠であり、現時点の人類の能力を最大限に引き出せるものと言っても良いと思います。地球上で唯一の知的生命体である人間として、また、日々脳や交感神経系を酷使するビジネスパーソンとしてのパフォーマンスを高めるために人間らしい睡眠をおろそかにしない、という意識を持つことが重要かと思います。